このブログは、歯科インプラントに関する事柄を小林が思いついた時に書き留めたもので、下に行くほど古くなります。御意見ご質問をお待ち致しております。
歯を失った患者さんは、発音・咀嚼・顔貌などに不安や不満を感じている方が多数いるようです。このような状態を「歯牙欠損」「歯牙喪失」などの病名が付けられます。
「歯牙欠損」「歯牙喪失」には、旧来、可撤式義歯(取り外し式の入れ歯)とブリッジ(歯を失った前後の歯を削って橋をぶら下げる治療)が行われてきました。江戸時代には、つげの木で作られた入れ歯がお城を持つほどの人たちに供給され、明治時代になってからは非常に高価な蒸ゴムによる入れ歯が作られました。しかし、これら高価な治療も、患者さんたちの「若いときのように食べたい」「きれいな口元に戻りたい」との望みを十分にはかなえてくれなかったようです。1900年前後になると、イタリアなどでスパイラルシャフトといわれる金属の細長いねじを直接に、あごに埋め差し込んで人口の歯を支えようとする治療が行われました。その後、1952年にインプラントにとって画期的な発見がもたらされます。それは現在のインプラント治療の主流であるオッセオインテグレーションインプラントの基本概念であるチタン表面が骨と結合することが発見されたことです。発見者はスウェーデンの学者Professor Per-Ingvar Brånemark ブローネマルク教授で、以来約10年間に及ぶ基礎実験の後、1965年5月より患者さんへの臨床応用が開始されました。その後は臨床研究も進められ、オッセオインテグレイテッド(骨と結合した)インプラントの予知性が高いことが証明されました。1982年頃から本治療法は世界中に普及し、日本でのオッセオインテグレイテッド・インプラント治療の歴史は30年近くになります。この間、インプラントの表面性状、チタンの成分、インプラントの形状、太さ、長さ、アバットメント(後述)とインプラントの結合方式など、様々な試行錯誤、研究、進歩、時に失敗を乗り越えて、2005年以降はエピデンスも積まれ安定期になっています。インプラント治療が、患者さんに旧来からおこなわれている可撤式義歯、ブリッジなどの治療の不十分な点を克服して、歯を喪失した場合の治療法の第1選択肢になったと言えます。