審美性を重視したジルコニア製インプラントの患者さんへの使用を考える前に、30歳代40歳代の歯科医が未経験の本邦における歯科インプラントについての負の歴史について触れさせていただきます。 今まで、歯科インプラントといえば、チタン製のみのようにも思えますが、20年以上前には、様々な材質、形状のインプラントが流通しておりました。たとえば、1980年代後半には旭光学のアパセラムが新時代のハイドロキシアパタイトインプラントとして、さらに住友化学工業が発売していたスミシコンですが、現在のインプラントがねじ状であるのに対して、ブレード状の形態でハイドロキシアパタイトが表面に溶着されており骨との結合を謳っておりました。最終的には、旭光学も住友もこれらの製品の破折やハイドロキシアパタイトの剥離、すなわちインプラント除去が増えて発売を取りやめ歯科業界から撤退してしまいました。さらに、京セラの人工サファイアインプラントです。何名もの日本の開業医が開発に関与したのですが、オッセオインテグレーション(骨結合)が得られていたかは不明です。私の経験上は、おそらく30本以上の人工サファイアインプラントを診察しましたが、明らかにオッセオインテグレーション(骨結合)している症例は確認できませんでした。ほとんどが天然歯と連結しているか、連結していないものは全くオッセオインテグレーション(骨結合)していないので、除去させていただきました。海外製品も、米国のカルしテック社、ドイツのIMZインプラントのようにハイドロキシアパタイトの問題を引き起こしました。どれもが、骨との結合を謳っておりますが、過去に新しいスミシコンや人工サファイアインプラントが最新のインプラントとしてもてはやされて、多くの患者さんにトラブルを起こした経緯を見ますと、ノーベルバイオケア等も、ドイツの研究者と協力関係を微妙に保ちながらも、製品としての採用には躊躇をしているようです。(ノーベルバイオケア社は、5年ほど前には米国内でのコングレスでジルコニアインプラントについて研究者に講演をさせておりました。)私ども歯科医は医療器具の認可が世界で一番厳しい本邦での臨床家として、これら製品の患者さんへの臨床応用には、より多くの科学的な根拠を持つ研究論文が多数出るまで、いましばらく様子を見なければならないと思われます。
すでに、欧米では、数社から白いジルコニアインプラントが発売されております。下記もその一つです。インプラント本体とアバットメント(歯肉の上に露出する柱部分)が一体となっております。ドイツブレデント社の製品です。このブログは、歯科インプラントに関する事柄を小林が思いついた時に書き留めたもので、下に行くほど古くなります。御意見ご質問をお待ち致しております。
歯を失った患者さんは、発音・咀嚼・顔貌などに不安や不満を感じている方が多数いるようです。このような状態を「歯牙欠損」「歯牙喪失」などの病名が付けられます。
「歯牙欠損」「歯牙喪失」には、旧来、可撤式義歯(取り外し式の入れ歯)とブリッジ(歯を失った前後の歯を削って橋をぶら下げる治療)が行われてきました。江戸時代には、つげの木で作られた入れ歯がお城を持つほどの人たちに供給され、明治時代になってからは非常に高価な蒸ゴムによる入れ歯が作られました。しかし、これら高価な治療も、患者さんたちの「若いときのように食べたい」「きれいな口元に戻りたい」との望みを十分にはかなえてくれなかったようです。1900年前後になると、イタリアなどでスパイラルシャフトといわれる金属の細長いねじを直接に、あごに埋め差し込んで人口の歯を支えようとする治療が行われました。その後、1952年にインプラントにとって画期的な発見がもたらされます。それは現在のインプラント治療の主流であるオッセオインテグレーションインプラントの基本概念であるチタン表面が骨と結合することが発見されたことです。発見者はスウェーデンの学者Professor Per-Ingvar Brånemark ブローネマルク教授で、以来約10年間に及ぶ基礎実験の後、1965年5月より患者さんへの臨床応用が開始されました。その後は臨床研究も進められ、オッセオインテグレイテッド(骨と結合した)インプラントの予知性が高いことが証明されました。1982年頃から本治療法は世界中に普及し、日本でのオッセオインテグレイテッド・インプラント治療の歴史は30年近くになります。この間、インプラントの表面性状、チタンの成分、インプラントの形状、太さ、長さ、アバットメント(後述)とインプラントの結合方式など、様々な試行錯誤、研究、進歩、時に失敗を乗り越えて、2005年以降はエピデンスも積まれ安定期になっています。インプラント治療が、患者さんに旧来からおこなわれている可撤式義歯、ブリッジなどの治療の不十分な点を克服して、歯を喪失した場合の治療法の第1選択肢になったと言えます。